ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「もう……気配を消して近づかないでって、いつも言ってるのに」
「そうでもしないとマルグリットはすぐ逃げるだろ?」
いたずらっぽく笑う夫は巻き付けた腕をさらにきつく締めてくる。
「今はそんなこと、ないでしょう?」
いつも隙あらば抱きついてきて離そうとしない夫に、呆れ半分諦め半分の声を返した。
(ああ、ここにもいたわ……)
龍の託宣を受けた男どもは、一様にみなこういうものらしい。
「ロッテも苦労するのかしら……」
背後の夫にジト目を送りながらつぶやくと、イグナーツはつり気味の目を丸くしてきょとんとした顔をした。
「なんでもないわ」
首を曲げて、唇に触れる程度のキスを落とす。イグナーツは満面の笑みでそれを迎え入れると、マルグリットを抱き込んだまま、性急な動作で部屋を後にした。
ぱたんと静かにドアが閉められ、子供部屋に静寂がおりる。
たのしい夢でもみているのだろうか。静かに寝息をたてて眠るリーゼロッテの口元が、しあわせそうに弧を描いた。
これは過ぎた日の、やさしい思い出のおはなし。
「そうでもしないとマルグリットはすぐ逃げるだろ?」
いたずらっぽく笑う夫は巻き付けた腕をさらにきつく締めてくる。
「今はそんなこと、ないでしょう?」
いつも隙あらば抱きついてきて離そうとしない夫に、呆れ半分諦め半分の声を返した。
(ああ、ここにもいたわ……)
龍の託宣を受けた男どもは、一様にみなこういうものらしい。
「ロッテも苦労するのかしら……」
背後の夫にジト目を送りながらつぶやくと、イグナーツはつり気味の目を丸くしてきょとんとした顔をした。
「なんでもないわ」
首を曲げて、唇に触れる程度のキスを落とす。イグナーツは満面の笑みでそれを迎え入れると、マルグリットを抱き込んだまま、性急な動作で部屋を後にした。
ぱたんと静かにドアが閉められ、子供部屋に静寂がおりる。
たのしい夢でもみているのだろうか。静かに寝息をたてて眠るリーゼロッテの口元が、しあわせそうに弧を描いた。
これは過ぎた日の、やさしい思い出のおはなし。