ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ジークフリートの妻に対する溺愛っぷりは貴族の中では有名な話だ。愛されていると言えば聞こえはいいが、あの執着を愛と言っていいものだろうか。

「こんやくしゃさまってどんな方なのかしら……?わたし、お会いしてみたいわ」
「そうね……ロッテが三歳になったら会えると思うわ」
「もうすぐ?」
「春が来て暖かくなったもうちょっと先ね……秋になるかしら……」
「あき?」
「そう、秋ね」

 うとうとしだしたリーゼロッテの瞳は今にも閉じそうになっている。

「さあ、いい子はもう眠る時間よ」
「はい、母様……おやすみなさい……」

 リーゼロッテの肩まで毛布をかけなおすと、マルグリットはその頬にやさしくキスをした。

「……ロッテは眠ったのか?」

 突然後ろから抱きすくめられ、「ええ」とマルグリットは苦笑いを返した。
 イグナーツには昔から驚かされてばかりだ。いい加減慣れもしたが、不意を突かれると咄嗟に手や足が出そうになる。

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