ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 茶会の開始とともに王妃の離宮の庭園では、デビュー前の令嬢たちが王妃に挨拶するために、長い列を作っていた。

 イジドーラ王妃は、令嬢とその母親のアピールに対して適当に返事を返しつつ、初々しい令嬢たちを、目を細めながら観察していた。口もとのほくろがなんとも色香を漂わせている。王妃は始終鷹揚に頷いていた。

 今日集めたのは、社交界デビュー前の子爵位以上の令嬢たちだ。無作為に選んだわけではない。どの令嬢も、ブラオエルシュタインの長い歴史の中で、王家の血筋が混ざった経緯のある家の子女であった。

 それにしても、令嬢よりも母親によるうちの娘アピールがすさまじい。未来の王妃の母を目指す、面の皮の厚い母親ばかりだ。しかし、イジドーラはそんな夫人たちは嫌いではなかった。ある程度の野心は、貴族として認められるべき気概と言えよう。

 公爵令嬢であったイジドーラは、先の王妃がみまかられたあと、後妻としてディートリヒ王に輿入れした。上位貴族とはいえ、社交界の荒波を乗り切るには、それなりのしたたかさが必要だった。

 しかし、今回ばかりは選ぶのはハインリヒだ。自分にすりよったとしても、意味をなさない。
 あわれな息子は、運命の令嬢を迷子にしてしまっている。血を分けた子ではないが、心から幸せになってほしいと願う程度には、イジドーラはハインリヒのことをかわいく思っていた。

 本人に嫌がられようと、母として自分にできることをしてやりたかったのだ。

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