ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ようやく、令嬢のご機嫌うかがいの列に終わりが見えてきた。

「クラッセン侯爵長女、アンネマリー・クラッセンでございます。王妃様、本日は素晴らしいお茶会にお招きいただきまして、恐悦至極に存じます」

 めずらしく母親のつきそいのない令嬢が礼を取った。ふわふわの亜麻色の髪のかわいらしい令嬢だ。

(これはドストライクね)

 令嬢のメリハリのある柔らかそうな体を観察しつつ、王妃は声をかけた。

「クラッセン侯爵は、外交で隣国へ赴いていたわね。侯爵の手腕はなかなかのもの。これからも頼りにしているわ」
「恐れ多いお言葉、ありがたき幸せにございます。父が泣いて喜びますわ」

 侯爵令嬢自身はそれほど感動したそぶりもみせず、社交的な笑顔をその口元に張り付かせていた。

(クラッセンといえば、ジルケが嫁いだところね。言われてみればジルケにそっくりだこと)

 旧知のたれ目の侯爵夫人を思い浮かべ、王妃は懐かしそうに眼を細めた。侯爵令嬢は、堂々とした態度で王妃に臆することもなく、挨拶を終えてさっさと去っていった。

「……アンネマリー、ね」

 王妃は口元を扇でおおい、後ろに控える女官にひそひそと声をかけた。

「たしかあの娘もクラッセン侯爵と一緒にしばらく隣国へいたはずだわ。詳しく調べ上げなさい」

 女官は小さくうなずいて、仰せのままにと頭を下げた。

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