僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい
「はい、英輔」
俺はリビングを出ると、部屋の机の上にある二枚のチケットと身分証明書を取りに行って、それを一枚英輔に渡した。
「ありがと! ライブマジ楽しみ!!」
「うん。俺も楽しみ」
リビングのソファのそばに置いてあった鞄を手に取ると、俺はその中にチケットと身分証明書を入れて鞄を肩にかけた。
靴を履いて家を出て、お義父さんのセダンと母さんの車がある駐車場まで、みんなで足を進める。
駐車場に着くと、お義父さんはすぐに車のロックを解除して、運転手席のドアを開けた。
「ね、姉ちゃんどこ座る?」
後部座席のドアを開けてから、俺は姉ちゃんを見た。
「蓮夜はどこに座るの?」
「お、俺は英輔と一緒に座るから後ろかな」
「じゃあ私も後ろにしようかな。それでもいい?」
「う、うん」
お義父さんの真後ろに英輔、その隣に俺、俺の左隣に姉ちゃんが座った。英輔が後部座席のドアを閉めると、紫月さんはすぐにシートベルトを締めて、エンジンをかけた。
「蓮夜、今まで、本当にごめんね。さっきも謝ったけど、蓮夜にはもう一度謝った方がいいと思ったから」
俺の腕を見ながら、姉ちゃんは頭を下げた。今は春で、俺は黒い長袖を着ているから、腕は傍から見たら何ともないように見える。でも実際は、虐待がなくなってから六年が経っている今でも痣と火傷の跡がしっかりと残っている。姉ちゃんもそれがわかっているから、きっと俺の腕を見たのだと思う。
「謝ってくれて、ありがとう」
姉ちゃんを見て、俺は言った。
『もういいよ』とか『気にしないで』とは言えないけど、お礼なら言える。そういうことを言えるくらいには、虐待のことは俺の中では過去の出来事になっている。
「今もまだ、あの事故や私に暴力を振るわれた夢は見る?」
「もう見てないよ」
「そう。よかった」
「蓮夜、英輔、飾音、シートベルト締めろ。武道館向かうぞ」
「うん!」
シートベルトを締めて、お義父さんの声に返事をする。車のミラーを見ると、お義父さんと目が合った。お義父さんは声を出さず、口だけを五回動かした。『よく言った』と言われたような気がした。褒められたのが嬉しくて、テンションが上がった。
「はーい」
「はい!!」
英輔と姉ちゃんがシートベルトを締めて、順々に返事をする。お義父さんは二人の声を聞くと、すぐに車を発進させた。