僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい
爆音。武道館のステージの上からは、そう言っても過言ではないくらいの音が響いていた。
前の席にはバンドのファンクラブの人たちが座っていたから、俺達の席は、ステージから十五列くらい離れたところだった。
「お前ら、楽しんでるか!」
ステージの中央にいる大地さんが叫ぶ。大地さんは出会った時と同じように、黒いハットをかぶっていた。大地さんの周りには、ギタリストと、ベーシストとドラマーがいた。
「大地様!」
「こっち向いてー!」
大地さんが声を発した途端に、会場が大勢の女の人の黄色い声で満たされた。多分、ファンクラブの人達の声なのだと思う。
他のバンドメンバー達への声援もあるけど、大地さんへの声援の方が、他のメンバー達への声援の三倍以上はある気がした。
大地さんは帽子を取ると、それを客席に向かって投げた。これも一つの演出なのだろうか。女の人達は一斉に、帽子に手を伸ばした。帽子は宙を舞い、俺の右隣にいる姉ちゃんの足元に落ちた。
「今日、俺は大切な人をライブに招待した。これは、その人達に捧げる歌だ」
会場がざわめいて、「大地様の大切な人って、一体誰?」「恋人?」と、観客が騒ぎ始める。
「ああ、安心しろよ。恋人でも、子供でもない。弟みたいな奴だ」
弟? お義父さんのことか? 義理の子供だと言ったら恋人がいるのを危惧されると思ったから、そう言ったのだろうか。
大地さんが歌を歌い始めた。
『ずっと探していた。俺らだけの楽園……』
それは、二人の男の子が地獄のような世界から逃げて、同居を始めることを歌った曲だった。俺とお義父さんの曲だ。胸が締め付けられて、心臓が怖いくらいに、大きく音を立てた。