僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「……ありがとうございます」
「ん。じゃ、蓮に手当でもしてもらおうかな」
 紫月さんが洗面所に行って、ズボンを脱ぐ。

「しっ、紫月さんその足……」
 紫月さんの左足は付け根から太ももまでのところに、五つくらいの青黒いあざができていた。
「ああ。俺も蓮と同じだよ。ギャンブル好きの親が借金のせいで溜まったストレスを発散するために子供に手を上げるのなんて、よくある話だろ」
「太ももより下にないのは虐待がバレないようにするためですか」
「ああ。太ももより上は制服か体操着のズボンを履いてれば隠れるからな。靴で隠れるからか足の裏もよくやられたよ。冬だったら裸足を無理矢理雪に押し付けられて、夏だったら、ミミズや幼虫がうじゃうじゃしている泥水の中に裸足を無理矢理入れられた。家の中は本当に地獄だった。弟といる時間以外はな。まあ、そんな風だったから部活とバイトを三年まで続けられたんだけどな」

「部活とバイトの時間が逃げ道になっていたんですか」
「ああ。弟も虐待を受けていたから俺が部活かバイトをしている時は近くで待ってもらって、暴力を振るわれる時間をできる限り減らそうとしてた」
 同じだ。
 俺も紫月さんと同じように虐待される時間を少しでも減らそうとしていた。

 俺と紫月さんはやっていたことや家の環境が少し違うだけで、家族にされたことはすごく似ているんだ。

「俺を見て弟さんのことを思い出したのはそれが理由ですか」
「ああ。お前が昼間から漫画喫茶で時間潰しをしたり怪我をしたりしているところや、家族と上手くいってないところが弟とかぶったんだ。だからってお前を弟だと思っていいわけないのにな。ごめん、本当に」
「いえ、別に紫月さんを責めてるわけじゃないので。俺は大丈夫です」

「蓮は本当にいい子だな」
 俺を見ながら、紫月さんは口元をほころばせる。
「……そんなことないです」

「いい子だよ。今だって俺が手当してもらおうかなって言ったら、嫌だとも言わなかったし」
「それは別に、いい子なのとか関係ないと思います」
 ただ俺が怪我している人を見て見ぬふりできないだけだし。
「関係あるだろ。そういう親切って誰でもできるわけじゃねぇんだから」
 紫月さんが腕を組んで言う。
「そうですか?」
「そうだよ。お前はもっと自分に自信を持て」
「……ありがとうございます」
「ん。じゃあとりあえず足洗わなきゃだからシャワーの水出してくれるか?」
「はい」
 俺が頷くと、紫月さんは風呂場に入った。
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