僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい

 俺は紫月さんを追って風呂場の中に入ると、シャワーを手に取った。
 シャワーの水を傷口に当て終わると、俺と紫月さんは身体を拭いてから廊下を抜けた先にあるダイニングキッチンにいった。
 ダイニングキッチンの中央には食事を取るためのテーブルと四つの椅子があって、左奥には何十冊もの漫画が入った本棚があった。
 どうやら、本当に漫画が好きみたいだ。

「えっとキズパッドは……」
そう言いながら、紫月さんはダイニングの隣にある畳式の憩いの場に行った。そこには布団と写真たてとゴミ箱の他に玩具が入ったカゴがあって、なぜかそのカゴの下の方に包帯とキズパッドがあった。
「え……。なんでこんなところにキズパッドがあるんですか」
 紫月さんがキズパッドの箱を俺に渡してから口を開く。
「そんなの両親に玩具投げられたり殴られたりしてして怪我した時に、すぐにはったり巻いたりできるように、に決まってんだろ。傷口洗うために洗面所まで行こうとしたら逃げる気だろって怒鳴られるから、せめて包帯は巻くようにしてたんだ」
 そう言うと、紫月さんは足元にあった布団の上に腰を下ろした。
 布団は大人が二人で寝られそうなくらいの大きさで、紫月さんが一人で寝るために買ったものとはとても思えなかった。

「紫月さん、この布団はもしかして、弟さんと一緒に寝てた時のですか?」
 紫月さんと向き合う形で布団の上に座ってから、俺は尋ねた。

「ああ。俺弟が四歳くらいの時からその布団で一緒に寝てたんだ。弟が植物状態になっちゃったんだから一緒に寝てた時の布団なんて捨てればいいのにさ、いつまで経っても捨てらんない。それどころか俺はこの布団を定期的にクリーニングしててさ、元気になるかもわからない弟のために。本当に現実を受け入れられてないよな」
「いいんじゃないですか、それでも。弟さんきっと喜びますよ。布団が残っているの知ったら」
「そうか?」
「はい」
「フッ。……そうだといいな」
 紫月さんが口角を上げて大人びた顔で言う。
「絶対そうですって! 俺が保証します!」
「アハハ。何だよ、それ。本当にお前いい子すぎ」
 思わず頬が赤くなった。
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