意地悪な副社長との素直な恋の始め方


「偲月っ! ごめん、ごめんねっ!? わたしが馬鹿なことしたせいで……ごめんっ! こんなことになってるなんて思ってなくてっ」


飛びつくようにしてわたしを抱きしめたナツは、泣きじゃくりながら謝罪と言い訳を繰り返した。


「……もういいよ。お互い無事だったんだし」

「でも、偲月のお兄さんが怪我をしたって……」

「命にかかわる怪我じゃなかったから、大丈夫。今日抜糸もしたし。傷がきれいに治るまで、もうちょっと時間は掛かるだろうけど」

「ほ、本当に、ごめんっ」

「ナツこそ、いままでどうしてたの?」

「あちこち点々としてた。アイツの借金取りに追われてて。捕まったら酷い目に遭うかもしれないって言うから、借金を全部返せば大丈夫だって言ったから、偲月のお金を……。でも、本当は全然足りてなかったの。わたしを売って、借金をチャラにしてもらうつもりだって話してるのを聞いて、逃げ出したの。お金も、ケータイも全部あいつに取り上げられてて、フラフラ歩いてるところを拾ってくれたのがっっ……き、京子ママの、知り合いのひと、で……」


泣きじゃくり、言葉に詰まるナツから京子ママがその先を引き継いだ。


「昨日の夜、同業の友人からナツに似た子を保護してるって連絡を貰ったのよ。今朝、征二が確認しに行って連れ帰ってきたの。元カノの事件のこともあるから、一応警察に相手の男の居場所を連絡したし、金融関係の知り合いにも、ナツは無関係だって言っておいたから、もう巻き込まれることはないと思うわ」

「よかったね? ナツ」

「うっ……で、でも、偲月のお金……なくなっちゃった。ごめんね、偲月」

「お金はまた貯めればいいだけ。ナツがこうして無事でいてくれて、よかった」


頑張って貯めたお金を失ったのは、辛い。

でも、もしもナツが命を落としていたりしたら、もっと辛かっただろう。

お金は、働いて、また貯めることができるけれど、死んでしまった友だちを取り戻すことはできないのだから。


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