意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「返すから! 働いて、少しずつでも、ちゃんと返すから!」
「そのためにも、まずはちゃんと食べて、よく眠って、元気にならないと」
「うん」
「あ! でも……ルームシェアしていたアパートは、まだ借りたままだけど、家具家電は必要最低限のもの以外、売り払ったんだった……」
可能な限りの現金を手に入れるため、不用品は軒並み売り払った。
家具はベッド代わりのマットレスと毛布があるだけだし、家電は冷蔵庫と洗濯機しかない。
しかし、問題はシゲオのひと言であっさり解決した。
「いまのナツにひとり暮らしは無理でしょ。うちに来ればいいわ」
「い、いいの?」
シゲオは、ナツの頭を撫でながら苦笑する。
「みすぼらしい捨て猫を見かけると、つい拾っちゃう性質なのよねぇ」
「あり、ありがとう、ジョージ……」
「もー、泣くのやめなさい。ますますブサイクになるわよ」
「シゲオ、ありがとうね?」
シゲオなら、ナツを預けるのも安心だ。
「で、偲月。アンタのことなんだけど」
「ほんっとーに、ごめん! ロクに連絡もせず、荷物まで放置してて……」
「大した量の荷物じゃないし、放置されてもちっともかまわないけれど、アンタがいま住んでいるところって、元兄のところなのよね?」
「うん」
「確か、高校三年の時に、親が再婚したって言ってたわよね?」
「う、うん……」
「もしかして、グダグダ言ってたセ……」
「し、シゲオっ! その話は、あとでっ! あとでゆっくりしようっ!?」
慌てて話を遮るわたしの様子こそ、その通りだと言っているようなものだ。
シゲオは「ふうん」と呟いたきり、それ以上問い詰めることはなかったけれど、その顔には「あとで吐かせるわよ」と言いたげな黒い笑みが浮かんでいた。