意地悪な副社長との素直な恋の始め方

コウちゃんの提案に、八木山さんもうんうんと頷く。

プロの撮影現場に立ち会ったこともなく、広報の仕事だってまったく知らない。
けれど、入社式で新入社員たちの様子を撮るのは楽しかったし、興味はある。


「……考えて、みます」

「わたしは人事に直接口を挟むほど偉くはないけど、口添えくらいはできると思うから。その気になったら、言ってね?」

「はい。ありがとうございます」

「俺も、偲月ちゃんの撮ったもの見てみたいなぁ。インスタとかやってないの?」

「一応、やってますけど。非公開で……」


大学のサークル仲間にしか明かしていなかったアカウントがあると告白した途端、コウちゃんに真顔で詰め寄られた。


「なんで非公開なのっ!? アカウント教えてよ? 俺のも教えるし! 現像した写真もあるんでしょ? 見せてよ!」


コウちゃんとアカウントを教え合い、後日撮りためた写真を見せるため、お宅を訪れる約束もした。


「それにしても、世間は狭いよねー」

「そうですね」

「ところでさ、偲月ちゃんはいま何を撮ってるの?」

「風景、ですね。動物も撮りますけど、何日も張り込む時間はないので、その辺で見かける野良猫とか、小鳥とかが多いです」

「そっか。あの頃も、動物が被写体の写真が気に入ってたよね? アフリカに行きたいって言うから動物園に連れて行ったら、こんなのが撮りたいんじゃないって泣いちゃってさぁ……」

「す、すみません」

「ソフトクリーム二個で機嫌を直してくれて、ほっとしたよ」

「ほんと、すみません……」

「ひとは、撮らないの?」

「……撮りたいとは思ってるんですけど、プロでもないのにモデルをお願いするのも何となく気が引けて」

「そっか……そうだよね。突然写真撮らせてくださいなんて言えば、うさんくさいと思われるよね。最近じゃ、犯罪に巻き込まれる心配をするひとも多いしね」

「友人知人だと、お互いに照れてしまって上手くいかないし」

「難しいところだね……。でも、とにかくこれまで撮ったものを見たいな」

「はい。わたしも、見てほしいです」

「ところで、……の写真集は見た?」

「見ました! すごく良くて……」

「だよね!」

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