意地悪な副社長との素直な恋の始め方


「何が、『だから』なのかわからないが……」


朔哉は納得がいかない様子ではあったけれど、スマホを取り出し、「金曜日」と言った。


「金曜日?」

「夕方に、取材が一件入っているから、少し遅くなるかもしれないが、そのあとは空いている。それを逃がすとしばらくは無理だ」

「じゃ、じゃあ、金曜日! 待ち合わせ場所とかは、あとで連絡してもいい?」

「わかった」

「あ、どこか行きたいお店は……」

「偲月がいれば、どこでもいい」

「そんな、適当に……」

「適当じゃない、本心だ」

「…………」

(どうして、そういうことをいきなり言うのよ……)


意地悪なのと甘々なのとを入り乱れさせてほしくない。
どっちなのかはっきりしてくれないと、翻弄されて、純情な中学生(ではなかったけれど)のように赤面してしまう。


「偲月。俺がどれだけ我慢しているかわかっていて、そんな顔をしてるのか?」


甘い台詞でわたしを黙らせた朔哉は、理不尽にも文句をつけてくる。


「そんな顔って、どんな顔よ?」

「いますぐ押し倒して、着ているものは全部剥ぎ取って、ベッドに縛り付けて、あらゆる場所にマーキングしたくなる顔だ」


にこりともせずに言われると、つい聞き流してしまいそうになるが、相当に……。


「変態」

「ああ、そうだ。あまり焦らされると、本当におかしくなるかもしれない」

「大げさな……」

「大げさじゃない。偲月が帰って来ないかもしれないと思うと、夜も眠れず、食欲も失せる。酒で気を紛らわそうとしても、みっともなく店で酔いつぶれる始末だ」


自嘲気味にそう吐き捨てた朔哉は、罪悪感から目を合わせられないわたしの顎を掴んで無理やり上向ける。


「でも……情けない姿をさらすのも、悪くない」


どうして、と目で問うと、ふわりと笑った。


「偲月が、優しくしてくれる」


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