意地悪な副社長との素直な恋の始め方
昨夜、観覧車を降りたあとの記憶は、おぼろげだ。
流星が、夢遊病者のように歩くわたしを月子さんのマンションまで送り届け、「取り敢えず、明日会いたいとメッセージを送れ」と言われたことだけは、憶えている。
ちゃんと話さなくては、という思いは頭にあったので、言われるままにメッセージを送り、眠ったのか眠っていないのか、よくわからないまま、気がついたら朝になっていた。
朝の時点で、送ったメッセージは既読になったけれど、いま現在に至るまで、返信はない。
(取り敢えず、待ち合わせの場所に行くしかない……よね)
どうしてこんなことになったのか。
まちがいなく自分自身のせいだけれど、できることなら、あの朝に戻りたい。
デートの約束をする前に、話してしまえばよかったのだ。
さらっと、転職を考えていることだけでも。
詳しい話は後ほど、なんて便利な言葉もあるのだから。
結局、いつものように都合の悪い事、苦手なこと、イヤなことから逃げ回り、後回しにした結果が、コレだ。
(来てくれなくても……当然、だよね)
時間が経てば、朔哉も話を聞こうという気になるかもしれないけれど、昨日の今日ではいくらなんでも無理だろう。
三十分だけ待とう、そう思った。
待ち合わせに指定したのは、駅前の時計塔の前。
仕事終わりの時間帯だから、待ち合わせている人は多い。
ほとんどの人は、十分と経たずに待ち人がやって来て、仲良く腕を組み、手を繋ぎ、肩を並べて去って行く。
待ち合わせの時刻から三十分が過ぎたけれど、もう十五分待ってみようかと考え直した。
その十五分が過ぎ、もう十五分。
それからまた十五分。
電話してみようかとも思ったけれど、出てくれるなら、最初から断りの連絡くらいしているだろうと思えば、架ける気にはなれなかった。
結局、二時間待って、諦めた。
不思議と、涙は出なかった。