意地悪な副社長との素直な恋の始め方
朔哉が、わたしに直接連絡しようとした可能性があると知り、顔が引きつった。
(ま、さか……わたしには連絡してない、よね?)
「どうしたの? 偲月ちゃん。副社長から聞いてなかったの?」
「え、ええと……」
朔哉から、わたしにだけ連絡がなかったと言えば、コウちゃんはなぜ、と疑問に思うだろう。
その疑問に答えるには、朔哉に新しくした携帯電話の番号も、一新したそのほかのアプリのアカウントも教えていないため、没交渉になっている、と事情を説明しなければならず……。
なぜそんなことをしたのかと問われれば、完全に破局したからだということも説明しなければならなくなり……。
果たして、それらの状況を、冷静に、涙の一滴も流すことなく説明できるかと言われると……。
(無理)
「あはは、来てたかもー? 忙しくて、忘れてた」
「ここのところ、偲月ちゃんのスケジュールは殺人的だからねぇ。忘れるのも無理ないよ。でも、フォトグラファーにしろ、モデルにしろ、身体が資本。倒れたりしないよう、ちゃんと休息を取ることも仕事のうちだよ?」
「うん……」
いつまでも、朔哉とはダメになってしまったことを黙っているわけにはいかないが、『YU-KI』関連の仕事は、きっとこれが最初で最後だ。
「次」も、「これから」も、はない。
君子じゃないけれど、危うきには近寄らず、だ。
触れたくない話題には、長居しないのが一番。
もうちょっと落ち着いてから説明すればいいのだと自分に言い訳して、話題を変えた。