意地悪な副社長との素直な恋の始め方


京子ママに、「化粧品会社のコンテスト用にスタッフをモデルにした写真を撮りたい」とお願いしたところ、二つ返事で了承してくれた。

が、しかし。

会社に内緒でダブルワークしていたり、借金を返済するためにやむなくホステスをしていたり、親兄妹に知られたくない、等々。かつてのわたしのように、事情があってホステスをしている場合もある。

そのため、直接交渉してほしいと言われた。

そこで、バックヤードで出勤してくるスタッフを待ち伏せて、ひとりずつモデルになってくれないか訊ねた結果、ひと月前に別のお店から移ってきたアイさんが「知らない仲じゃないしね」と快くOKしてくれた。

なんとアイさんは、以前住んでいたアパートのお隣さん。わたしと朔哉がナツの元カレの元カノに襲われた夜、立見先生がTシャツにパンイチ姿で飛び出して来た部屋の住人だった。

仕事柄、一度見たひとの顔は絶対忘れないらしく、わたしを見るなり「カレシ大丈夫だった?」と訊いてきたのだ。

話の流れで立見先生のことに触れずにはいられず、元気なのだろうかと尋ねれば、あの夜以来彼に会っていないという。
綺麗すぎる笑みを浮かべたアイさんは、サバサバした口調で立見先生との関係を説明した。


『前に勤めていた高級クラブのお客さんで、「恋人」でもなんでもないんだよね。セフレと言えるほど寝てないし。医者とホステスなんて、愛人関係以上にはなれないからね。縁を繋いでおきたいとは思わないわ』


詮索するつもりはない。
けれど、営業モードの笑みが、前のお店を辞めたのはホステス同士の熾烈な争いに疲れたのだけが理由ではないと教えている気がした。

< 362 / 557 >

この作品をシェア

pagetop