意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「……スミマセン」
『SAKURA』を出て、タクシーに乗ったことは憶えている。
でも、そこから先は記憶が定かではない。
「どこまで覚えている?」
「お店を出て、タクシーに乗ったところまでは、はっきりと。でもそのあとは……」
途中、揺さぶられ、起こされたような気もするし、千鳥足で支えられながら歩いたような気もする。
シゲオが叱る声を聴いたような気もする。
タクシーの揺れが心地よくて、眠くなったこと。
やたらと固い枕の寝心地は最悪だったけれど、頭を撫でる手が優しかったこと。
傍にある温もりに安心したことは、記憶があるというよりも、身体が憶えているに過ぎない。
寝落ちしたわたしは呼べど揺さぶれど目覚めないし、ルームシェアしているナツに断りなく勝手に入るのもどうかと思い、自分の部屋へ連れて来たという朔哉は、呆れ顔だ。
「いつも、あんな飲み方をしてるのか?」
「あんな飲み方って……?」
「酔って、お持ち帰りされるような飲み方だ」
「そ、そんなことしてない!」
酔って記憶を失くしたのは、お酒の味を覚えたばかりの頃――成人したての頃以来だった。
普段、外で飲むときは、自力で帰れなくなるような飲み方はしないよう心がけていた。
チャラ男の生態は、高校時代にイヤというほど目の当たりにしている。
だから、大学時代もなるべく飲み会や合コンは避けていたし、社会人になってからも、職場の飲み会くらいにしか参加しなかった。もちろん、泥酔なんてしたことがない。
昨夜は、相手が朔哉だったから、無意識に気が緩んでいたのだと思う。
「一夜の過ちでは、済まないこともある。犯罪に巻き込まれる可能性だってあるんだ。以後、気をつけろ」
理由はどうであれ、酔っ払って迷惑をかけたのは事実。朔哉がお説教するのはもっともだ。
「ハイ……気をつけます。迷惑をかけてごめんなさい」
「ただし……俺と二人きりの時なら、いくら酔っても許す」
「……え? は?」