意地悪な副社長との素直な恋の始め方


自分が知らなかった事実を聞かされ混乱しているのか、ぼうっとした表情の芽依は声もなくただ頷いた。


「というわけで……もう寝てもいいかしら? 一応、こう見えても病人なのよね。わたし」


冗談めかしているが、月子さんの顔には疲労が色濃く滲んでいる。


「も、もちろんだよ! 今夜は僕が横で寝るから、安心して熟睡して」


ベッドを再びフラットへ戻した夕城社長を見上げ、小悪魔的な笑みを浮かべた月子さんが訊ねる。


「今夜だけ?」


一瞬、「うっ」と呻いた夕城社長は胸元を押さえ、何事かを呟き、こちらを振り返った。


「芽依。月子さんの体調が戻ったら、改めてゆっくり話そう。子どもだった芽依が、知らずに誤解していることがほかにもあるかもしれないから」

「……は、い」

「朔哉、芽依を送って行ってくれないか?」

「ああ。オヤジは、しばらく出社を見合わせると秘書に連絡しておくよ」

「そうしてくれるとありがたい」

「あら、そんな必要は……」

「ある」


きっぱり言い切った夕城社長に、何を言っても無駄だと思ったのか、月子さんはくるりと目を回す。

それから、しょんぼりした表情でわたしに詫びた。


「ごめんなさいね、偲月さん。せっかくのデートの予定が台無しになっちゃって……」

「いえ、大丈夫です。デートより、月子さんが大事ですから」

「わたしが元気になったら、ぜひお詫びさせてね?」

「お詫びだなんて、そんな気を遣わないでください」

「でも……」

「元気になった月子さんをたくさん撮らせてもらえたら、それだけで十分です」

「そう? じゃあ……偲月さんに初ヌード写真をお願いしようかしら」

「え」

「ダメだっ! 絶対にダメだから! 映画の濡れ場は我慢できるけど、世の中の男たちが月子さんの裸を延々と眺めるなんて……絶対に、ダメだ」


真顔で主張する夕城社長に、月子さんはくすりと笑う。


「やあねぇ。冗談に決まってるでしょう? こんなオバサンの裸を見て、喜ぶひとがいるわけないじゃないの」

「僕は喜ぶよ」

「…………」

< 411 / 557 >

この作品をシェア

pagetop