意地悪な副社長との素直な恋の始め方
元ギャルで、元ヤンではない


*****


それぞれ、思いがけず衝撃の告白を耳にすることになり、穏やか和やかとは言い難い雰囲気のまま月子さんの病室を出て、四人でエレベーターに乗り込んだ。


「車で来ているから、二人とも送って行く」

「方向が逆だろ。俺と偲月はタクシーで帰る」


当然とも言える朔哉の申し出を流星は断った。


「大した距離じゃない。母さんが世話になったし、送らせてほしい」


簡単には引き下がりそうもない朔哉に、流星は唇を歪め、嘲笑する。


「いまの偲月は、おまえらと一緒にいたくないと思うぜ?」

「……どういう意味だ?」

「り、流星さん!」


一気に険悪な雰囲気が漂い、朔哉を挑発しないよう流星の袖を引いて止めようとしたが、その手をぎゅっと握りしめられる。


(ちょ、ちょっと!)


なぜ手を握る、と驚いたが、さらに驚きの発言を耳にした。


「謝れよ」

(え、な、なに? どうして……流星さん、怒ってる?)


顎を上げ、挑むように朔哉を睨む横顔は、いままで見たこともないくらい険しく、冷ややかだ。


「偲月の言葉を疑ったこと。偲月の電話を事情も聞かずに切ったことを謝るのが、先だろうが」

「…………」

「芽依さん。アンタ、自分がしたことわかってんのかよ? 今回は、大したことなかったからよかったけどな。朔哉は何も知らないまま、実の母親と二度と会えなくなっていたかもしれないんだぜ?」

「……ごめんなさい」


目を潤ませて謝る芽依にも、流星はまったく動じない。


「そもそも、何で勝手に電話に出られたんだよ? 社用の、しかも副社長のだぞ? 朔哉の管理が甘すぎるだろ」

「あれは! 会議中、秘書が預かっていたのを彼が少し席を外す間、わたしが預かったの。だから、お兄ちゃんは悪くないの」

「いいや。朔哉が悪い。偲月から折り返しがないことを不審にも思わず、電話を架けたと言う偲月の言葉を頭ごなしに否定した。芽依さんは嘘を吐かないけど、偲月は吐く。そんな勝手な先入観で決めつけた。そうだろ?」

「…………」


苦い表情で黙り込む朔哉が、言い訳も反論もできないのは、自覚しているからだろう。

流星は、何が何でも二人から謝罪を引き出すつもりらしいが、いまさら朔哉を、芽依を責めたところで、何かが変わるわけでもない。

月子さんは無事で、夕城社長との拗れた関係も修復できそうだし、芽依も今回の件を反省し、改めて家族の絆を確認して、きっといい方向へ向かうだろう。

それで十分だった。


「もう、いいよ」

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