意地悪な副社長との素直な恋の始め方


シゲオの言葉が、胸に突き刺さった。

溜め込んでいたものを全部朔哉にぶつけてすっきりした……のは、あの日だけ。
時間が経つにつれ、徐々に冷静になり、怒りが小さく萎んでいくのと反比例して、何てことを言ってしまったのかと後悔する気持ちが膨らむ一方だ。

あの時吐き出した気持ちは、すべて本音で、口からでまかせではなく、嘘は吐いていない。
けれど、本当のことなら何を言ってもいいわけじゃない。

一度口から出た言葉は、取り消せない。
言うにしたって、言い方というものがある。

いくら仕事は仕事、プライベートはプライベートと言っても、そう簡単に割り切れないのがひとの気持ちなわけで。

幸い、「あのお話はなかったことに……」的な連絡はいまのところないけれど、あちらがわたしを起用するのをやめたと言えば、そのままオファーは白紙撤回されるわけで。

そもそも、立派な大人が、あんな風にブチ切れることはないわけで。


(どう考えても……大人の女の対応じゃなかった……完全に、元ギャルだった)


いい歳して、高校生のような喧嘩の売り方だ。
恥ずかしくて、情けない。

一か月、いや三か月……いやいや半年、一年も経てば、さすがに気まずさも薄れるだろうが、今日は午後から『YU-KI』傘下のブライダルサロンに立ち寄ることになっている。

昨夜、「今回のプロジェクトでお披露目予定のドレスが届いたので、ぜひ見てほしい」と、朔哉から花夜さんに連絡があったのだ。

彼が直接対応するとは聞いていないけれど、いないとも限らない。
もしいたら、どんな顔をして対峙すればいいのか。

あの日から十日近く過ぎても、正解が見つけられない。

(朔哉と出くわさないことを祈るしかない。でも、いたら……どうしよう……わたしの引きの良さを考えると、出くわさない可能性の方が低いような……)

「で、アンタは朔哉と仲直りできたの? むこうから、連絡は?」

「えっ! な、ない。けど、どうしてそれを……」

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