意地悪な副社長との素直な恋の始め方
(まさか、ここまでダメダメだったとは……。朔哉の部屋がいつもきちんと片付いていたのは、家政婦さんが毎日掃除していたからなのね。ほんと、どんだけ巨大な猫かぶってるのよ? もはや詐欺レベルだわ)
「へぇ、ダブルノットも上手くできるじゃないか。短期間で随分上達したのは、俺のおかげだな?」
「……そうね」
「次は、セミウィンザーノットをマスターしろよ? 偲月」
「かしこまりましたっ(怒)」
「ウィンザーノットも覚えろ」
「…………」
(そりゃあ、朔哉が不便な生活を送っているのはわたしのせいだけど……。百歩譲って、怪我をしているせいで、ストレスが溜まっているのだとしても……。甘えているというより、振り回されてバタバタしているわたしを面白がっているようにしか見えない。ねえ……わたし、このまま朔哉の首、絞めてもいんじゃない……?)
最後にきゅっとネクタイを締め上げながらそんなことを思っていたら、ふっと視界が翳り、柔らかなものが唇を覆った。
「パーティー用に、トリニティノットも必要だな」
「無理」
「練習しろ」
「い……」
「クロスノットも」
「…………」
「ちゃんと、練習に付き合ってやるから……覚えろ」
「ん……」
当たり前のように要求してくる朔哉が憎たらしい。
けれど、額を合わせ、鼻を擦りつけられ、尖らせた唇を啄まれると、あっという間にイライラトゲトゲした気持ちは溶けてなくなる。
ずるい。
でも、そのずるさが、わたしをほんの少しだけ素直にしてくれるのだから、責められない。