恋愛計算は間違える(アルバートとテレーサ)

ブランシュール城・管理官の訪問 32-34ページ

<ブランシュール城・台所・数日後・15時>

いつものようにテレーサは、
台所でオレンジの皮を剥いて(むいて)いた。

アルは考えていた。

あの管理官が、いつ来るかわからない。
この先をどうするか・・

「あの、テレーサ様・・
渡しておきたいものがあるのですが」
アルが声をかけた。

「はい?」
アルは、ポケットから小さい包みを取り出して、
テレーサの手を取り、その上にのせた。

あのエメラルドのブローチだった。

「これを・・俺が買い戻しました。人質から解放してくれたお礼です。
受け取ってください・・」

そう言って、
アルは両手で包み込むように、
テレーサの手に、ブローチを握らせた。
そのまま、アルはテレーサの瞳を見た。

その群青の瞳は、ガラス玉ではなく、戸惑い、いや、不思議そうな
感情を見せた。

どうしようもなくアルは、
テレーサの指先に自分の唇をつけた。

オレンジの香りが、深く胸に入りこむ。
あの幼い時の幸せな記憶が・・・・心を締め付ける。

「ロランドさん・・?」
そう言われて、アルはそっと唇を離した。

今の俺には
これが精いっぱいじゃないか・・・・

「話さなくてはならないことが
あります・・」

アルがそう言いかけた時だった。

玄関の扉が開いて、数人の男が入ってきた。

先頭の男が・・・
あの管理官だった。

「不法滞在者を出してもらおう。
アルバート・ロランドだ」
管理官はテレーサの方を見た。

「ブランシュールさん。
あなたはロランドを人質から解放し、雇用しましたね。
こいつは不法滞在、違法就労になります。」

アルはうなだれた。
「こいつを連れて行きます」
管理官が、部下に指示を出そうとした時だった。

「待ってください・・!」

テレーサが、信じられないくらいの大きな声で制止した。

「ロランドさんは・・ブランシュールの・・」

テレーサはすぐに引き出しから
何枚かの書類を出し、管理官に見せた。

「私との養子縁組の書類です。
後はロランドさんが、サインをしてくだされば成立をします」

「養子だと?」
管理官が素っ頓狂(すっとんきょう)な声をあげた。

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