婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
マナカは先ほどと同じような体勢で座ったまま、アレクシアを出迎えた。

「これを見てごらん」

彼女は地面を指差している。そちらに視線を向けてアレクシアは「デルフィ?」と声を上げた。

効果の高い薬草の原料となる花デルフィ。薬師なら誰もがひと目で分かる花だ。

「朝咲いているのを見つけたんだ。アレクシアも以前庭に咲いているのを見たって言っていただろう?」

「ええ。嫁いできて間もない頃だったと思うわ。ディナも見たわよね?」

同意を求めると一緒に覗き込んでいたディナははっきり覚えていたようで頷いた。

「はい。あのあと魔物が現れたりしたのですっかり忘れてしまっていましたけど、たしかに見ました。あの花はどうなったんでしょうか?」

「ルーサーに渡したんじゃなかったかしら」

庭に咲かないはずの花があるのはおかしいので調べると言っていた。

あれからいろいろなことが起きていたのですっかり失念していたが、結局どうなったのだろうか。

「ふーん。じゃああとでルーサーに確認してみよう。これは作業場に持ち帰ろうか」

マナカは器用に花を根本から掘り起こし、持っていた布で包んだ。皆で庭を進み作業場に向かう。

「……あら?」

アレクシアはふとうしろを振り返った。

「奥方様、どうかなさいましたか?」

騎士が反応して声をかけてくる。

「いえ、なにか妙な音がしたような気がしたから」

甲高くて耳障りな、なにかの悲鳴のような。

けれど視線の先には晴れ渡った青空が広がっているだけで、不審な点は一切ない。

「気のせいだったみたい」

「早く行くよ」

マナカに急かされて、先を急ぐ。

作業場に着いた頃には、妙な鳴き声のことはすっかり頭から離れていた。
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