婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
部屋に入ると、座っていたソファーから立ち上がり完璧な礼をしたのは、メイナードも見知った古くから王太子の側仕えをしている女官だった。

たしか現王妃の一族の娘でセラという名前だったか。

てっきり使者はイライアスの側近あたりだろうと思っていたので、驚いた。

なぜならこのブラックウェル領は、間の森の存在により国内でも危険な土地として知られているからだ。

王都から来る使者も商人は、男か戦闘訓練を受けた女性で、どうしても一般の女性が来なくてはならない場合は、十分な護衛をつける必要がある。

アレクシアが嫁いできた際も、精鋭の騎士が馬車を囲い鉄壁の守備の道中だった。

しかし今目の前にいるのは、メイナードと同年代のこれといった特徴のない普通の女性。しかも護衛を付けていない。

(イライアスはなにを考えている?)

アレクシアになんらかの要求があるのだとしても、この女官を使う意味は?

「本日は王太子殿下の名代としてまいりました」

「用件を窺おう」

メイナードは様々な可能性を思い浮かべながら、椅子に深く腰かけた。

セラは仮面をつけたメイナードの前でも怯える様子はなく、むしろ微笑みなが口を開いた。

「ブラックウェル公爵夫人アレクシア様に、王都にお出ましいただきたいのです」

ある程度予想はしていたものの、メイナードはぴくりと反応した。

「なぜだ?」
< 154 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop