婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
漆黒の茨に囲まれた目はオールディスの王族特有の金色で、アレクシアを見つめ輝いている。
その強い眼光に射すくめられたように身動きが取れなくなった。

(怖い……)

噂になんて惑わされては駄目だと思っていた。しかし皆が不安そうに囁いていたのは、真実だったのだと自分の目で見て知ってしまった。

メイナードの顔が近づいてくる。

本能的に危険を感じ逃げ出したいと思っているのに、身体が動かない。

アレクシアはきつく手を握り締めて、逃げ出したくなる衝動に耐えた。

けれど、唇が重なる直前、メイナードはぴたりと動きを止めたのだ。

誓いの口づけのふりを持って、婚礼の儀式が終了した。

(どうしてふりなんて……司祭様は気付いているはずなのに何も言わないのはどうして?)

ほっとした気持ちと疑問を感じながら、アレクシアは再び仮面をつけたメイナードのエスコートで、城内の一室に移動した。

広々とした空間に長椅子やひとり掛けの椅子が配置されている、過ごしやすそうな部屋だ。

日常が戻ってきたような安心感を覚え、先ほどまでの不安が消えていく。

あのとき感じた畏れは、悪天候と初めて体験した夜の神殿の雰囲気に飲まれたことが大きいのかもしれない。
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