婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
少し余裕が出てきて頭が回るようになる。ここで遅い食事を取るのかと観察していると、メイナードは椅子に腰かけることなく、アレクシアに向き直った。

「俺はこれからすぐに城を出る」

夫婦になって初めてかけられた言葉がそれだった。

「え?」

戸惑うアレクシアに、メイナードは表情ひとつ変えずに続ける。

「しばらく戻らないが、君は好きに過ごしてくれ。問題があればルーサーが対応する」

普通なら結婚式の後は祝宴があり、その後初夜となるが、メイナードの台詞からするとどちらも省くつもりのようだ。

相変らずよい声だが、たった今妻になった女性に対する言葉にしてはかなり素っ気ない。

(戻らないって、どこに行くの?)

ブラックウェル公爵は王家の血を引く名門貴族。望まない結婚だとしても、慣例の初夜までをいともたやすく無視するとは思ってもいなかったから驚いた。

(貴族の義務よりも優先する用事……駄目だわ、思いつかない)

しかしアレクシアがその疑問を口に出す間もなく、メイナードは部屋を出て行ってしまった。

残されたのは、アレクシアと部屋に控えていたディナ。それから家令のルーサーの三人のみ。

「アレクシア様、お座りください」

唖然としたままに去っていく夫のうしろ姿を見送っていたアレクシアに、ルーサーが声をかけた。

「は、はい……」

言われた通りに長椅子に腰を下ろす。
< 33 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop