婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
「よろしければ軽食をお持ちしますが」

「いえ、空腹ではないので大丈夫です」

「畏まりました。では飲み物を用意いたします」

部屋には茶葉などを用意したワゴンがあり、ルーサーは慣れた手つきで温かいお茶を淹れてくれた。

(ブラックウェル公爵家の家令は、自らお茶を淹れるのね)

こういった仕事は、本来侍女の役目のはず。

(そう言えば、侍女長たちの姿が見えない)

カップを口に運びながら、考える。

(侍女だけでなく、公爵付きの侍従も見当たらなかったわ)

公爵家とは考えられないほど、使用人の数が少ない。

「なにか気になることがございますか?」

アレクシアの表情を読んだのか、ルーサーが問いかけてきた。

「あの……この城では騎士は大勢見かけたけれど、使用人は少ないように感じました。旦那様の意向ですか?」

「はい。よろしければ当家についてご説明申し上げます。お疲れでしたら後日にいたしますが」

「いいえ、今聞きたいです」

即座に返事をすると、ルーサーは「失礼いたします」と言い、アレクシアの正面の椅子に腰を下ろし、ディナはアレクシアのうしろに控えた。
< 34 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop