婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
ただ一点、暇なことが問題だった。朝食を終えると早くもやることがなくなってしまう。

「アレクシア様、今日はなにをなさいますか?」

ディナが手持無沙汰な様子で聞いてくる。ここ最近毎朝のやり取りの定番だ。

(自由に過ごすって意外と難しい)

王太子妃候補として勉強の毎日だったアレクシアは、暇をつぶすという行為に慣れていない。

「図書室か、それとも庭を散歩してみる?」

提案してみたが、ディナの反応は鈍い。

「この城の蔵書はかなり偏っていますよね、政治や軍事関係ばかりなんですもの。庭もこれと言って見どころがありませんし。かと言って城下町に行くには護衛をお願いしないといけませんからね」

町を見て回るのは好きだが、忙しそうなルーサーを呼び出して護衛騎士の手配を頼むのは気が引けて足が遠のく。

「……天気がいいし、庭にしましょうか」

結局、いい案が浮かばず、日よけの帽子を被り庭に出ることにした。

アレクシアの部屋から見渡せる庭はかなりの面積があるが、これまで誰ともすれ違ったことがない。
少し歩くと背が高く大きく枝を広げた樹々が見えた。木漏れ日の降り注ぐ森の入口のような雰囲気だ。

(公爵家の庭とは思えないけれど、のんびり散歩するにはいいのかもしれない)

代わり映えのない景色をなんとなく眺めながら歩いていたそのとき、突然風が吹いた。
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