婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
アレクシアの日よけの帽子が空高く浮かび上がる。

「ああっ!」

背後にディナの悲鳴を聞きながら宙を舞う帽子を目で追う。すると思いがけないものが視界に入った。

「……鳥?」

羽を大きく広げた灰色の鳥らしきものが、かなりの速度でぐんぐんこちらに近づいてきているのだ。

「つ、墜落する? アレクシア様、逃げましょう!」

ディナが慌てふためきながらアレクシアの腕を引いた。

「え、ええ……」

ふたりで逃げ出そうとしたが、間に合わなかった。

鳥のようなものは、かなりの勢いで近くに墜落したようで、大きな衝撃音と風圧が体を襲う。

「きゃあ!」

ディナとふたりで芝生の上に倒れ込んだ。

「すごい風……向こうに落ちたの?」

舞い上がる砂埃に咳き込みながらも体を起こす。前方の芝の上に、先ほど前は無かった灰色の何かを見つけた。

(あれは……)

目を凝らし、観察する。

「……やっぱり鳥だわ、でもすごく大きい」

灰色の鳥は、アレクシアの体の半分以上はありそうに見えた。

怪我をしているようで苦しそうに地面に羽を広げもがいている。

「矢を射られたのかしら」

アレクシアは見たことがない鳥だけれど、この辺りでは狩人の獲物になっているのだろうか。

おそるおそる近づこうとすると、ディナが必死に止める。

「危ない、駄目です!」

「ただの鳥よ。怪我をしていて飛べないみたい」
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