婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
「今まで何度も治癒の術は使って、動物にだってかけたことがあるけれど、こんな現象初めてだわ」

まるで白昼夢のような出来事だ。

「どうしよう……あの鳥はどこに行ったの?」

キョロキョロ辺りを見回したものの、なんの気配もない。

「分かりません。本当に一瞬の出来事でしたから。今のは普通の治癒魔法ですよね?」

「うん、とくに変わったことはしていないのに」

もう一度、なにもない空間に手を翳し魔力を集める。白金の輝きはいつも通り。清涼な癒しの力を感じる。

「違和感はないですね」

ディナがぽつりと言う。

「うん、私もそう思うわ。でもそれなら今のはなんだったのかしら」

ふたり揃って幻覚を見た? 首を傾げながら辺りを見渡す。

すると、一際大きな樹木の根本に、それまで気づかなかった、小さな白い花を発見した。

「これは……フィデルの花?」

「珍しい花なので、実物を見るのは久しぶりだ。
 
光の届きづらい深い森に咲く花。毒があるので気をつけなくてはならないが、根の部分が薬にもなる。錬金術師や薬師にとっては貴重な花。

(でもどうして公爵家の庭に?)

 怪訝に思っていると、辺りが急に騒がしくなった。直後、大きな声が響く。

「アレクシア!」

声の主はメイナードだった。なぜかひどく慌てた様子で駆け寄って来る。

「旦那様?」
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