婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
「どうした? なにか見たのか?」

メイナードの声が鋭くなった。

「あの、怪我をした鳥なら見かけました。嘴が黒く頭にこぶがありました。空から急降下して来ましたし、あれがそうだったのかもしれません」

おかしな鳥だとは思っていたが、まさか魔獣だったとは。アレクシアたちを襲ってくる気配もなかったので、少しも思い至らなかった。

「それだ! どこへ行った?」

メイナードがアレクシアの肩を掴んで問う。ついびくりとしてしまうと、彼ははっとした様子で手を引っ込めた。

「すまない」

「いいえ、少し驚いただけです。それで鳥なんですが……実は消えてしまったのです」

「消えた?」

「はい。突然跡形もなく。そのときの様子はディナも見ていました」

「……どういうことだ?」

メイナードの声が一段低くなる。ちょどそのときルーサーが駆け寄ってきた。

「メイナード様! いましたか?」

彼も魔獣を追っていたのだろう。大急ぎでやって来たのか、かなり息が乱れている。

「ふたりが見かけたが、いきなり消えたようだ」

「は?」

ルーサーがぽかんと口を開ける。

その間もなにか考えていた様子だった、メイナードが口を開いた。

「部屋に戻ろう。ここには見張りの騎士を置いてくれ」

「はい。アレクシア様にお話を窺うんですよね。俺も同席した方がいいですか?」

ルーサーの問いに、メイナードは頷いた。
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