政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 翔吾はくっくと肩を揺らしながら柚子を見る。その笑顔に柚子の胸はキュンと鳴った。
「と、とりあえずよ。呼び名がないと不便でしょ。本当にはじめは引き取り手を探そうとして……」
「わかったわかった」
 そう言った翔吾の手が柚子の方に伸びてくる。
 頭を撫でてくれるのだ。
 でもその手はあと少しのところまできて、ぴたりと止まる。そして少し軌道修正をして、柚子の膝のクロを撫でた。
 クロが嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らした。
「じゃあ、俺は風呂に入ってくるよ。柚子は先に寝てて」
 柚子の胸がズキンと痛んだ。
 結婚が決まるまで、翔吾はよく柚子の頭を撫でてくれた。
 まるで小さな子供にするように。
 温かい大きな手にそうされるのが柚子は大好きだった。嬉しくてたまらなかった。
 でも結婚してからは、それはぴたりとなくなったのだ。
 やっぱり、彼は柚子との結婚を望んではいなかったのだ。
「よかったね。クロ」
 そうぽつりと呟いて、柚子は黒いふわふわの毛をそっと撫でた。
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