政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 一方で正式な婚約者だった彼女の姉の沙希とは、互いにずっと親友のような間柄だった。名家の長子に生まれたがゆえの苦労や苦悩を共有できる数少ない理解者として。
 だが残念ながら互いに恋愛感情を抱くことはできなかった。
 比較的早くにそれを確認し合ってからは、それぞれこっそり自由に恋愛を楽しんだものだ。
 そうしていながら最近まで婚約を破棄しなかったのは、沙希との約束があったからだ。
『私、いずれは自分の力で一から会社を大きくしたいの。その準備ができるまでは、婚約したままにしてくれない? 婚約を破棄したいなんて言ったら実家を追い出されちゃうわ』
 そう言って、翔吾との婚約を隠れ蓑にたくさんの知識と人脈を培って、沙希は世界へ羽ばたいていった。
 婚約破棄を置き土産にして。
 婚約破棄を翔吾が振られた形にしたのは、沙希の将来を考えてのことだった。
 まだ結婚する気はないと言う彼女だけれど、なるべくその将来に傷がつかないように。
 翔吾自身は、結婚に興味はなかったから、散々待たされた上に三十歳にもなって、婚約を破棄されたなどという悪評が立とうがどうでもよかったのだ。
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