政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 柚子への想いは、もうずっと昔に諦めていた。
 元婚約者の妹を妻にしたいなど到底口にできる話ではない。非常識極まりない話だ。
 だから翔吾はその想いを誰にも気が付かれないようにひた隠しにしていたのだ。
 柚子は成長するにつれ、華が開くように、美しくなっていった。
 彼女の学校が住吉家の娘が代々通うという厳格な女子校でなかったら、翔吾はさぞかしやきもきさせられただろう。
 そしてその女子校で、純粋培養のように守られて育った彼女は、おそらくまだ恋を知らない。
 その彼女にもまた、翔吾の気持ちを知られるわけにはいかなかった。
 自分を兄のように慕っている彼女に、胸の中の熱い想いを知られてしまったら、ただ怖がらせてしまうだけだろう。
 沙希の代わりに自分が翔吾の妻になると柚子が言い出したと知った時は、言葉では言い表せない衝撃を受けた。
 そして彼女を、心の底から痛々しく感じた。
 引っ込み思案で、自分の意見を言うことが苦手な柚子。
 でも誰よりも相手のことを思いやる、優しい柚子。
 その柚子が、はじめて自分の意見を通したのが、朝比奈家と住吉家のためだったということが、ただ胸に痛かった。
 本当は最後まで拒むべきだったのだ。
 こんな結婚は間違いだ、これから君は本当の恋を知り、本当に愛する人と結婚をしなくてはならないと、彼女を説得するべきだった。
 でも翔吾がそれをしなかったのは、できなかったのは、自分が卑怯で弱い人間だからだと自覚している。
 とっくの昔に諦めていた柚子を、思いがけず手に入れられる千載一遇のチャンスだと、仄暗い喜びを感じている自分。
 本当の恋を知り、自分ではない他の誰かと彼女が寄り添う姿など、絶対に見たくないと、嘆く自分。
 そんな醜い思いを抱いて、翔吾は柚子との結婚を決めた。
 ……あの日からずっと、翔吾は彼女への罪悪感に苦しめられ続けている。
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