政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
「ご主人様をベッドへつれてゆくよ」
 そう声をかけて翔吾は柚子を寝室へ運ぶと、温かいベッドへ寝かせる。布団をかけてやると、長いまつ毛に覆われた瞼がわずかに開いた。
「……翔…くん?」
「ああ、そうだ。ただいま」
 前髪をそっと撫でると柚子は気持ちよさそうにまた目を閉じた。
 そして小さな声で呟いた。
「私、翔君に言わなくちゃいけないことがあるのに……」
 でも眠気には勝てないようだ。
 そのまま、またくうくうとかわいい寝息を立て始める。
 翔吾はくすりと笑みを漏らし、彼女の頭を優しく撫で続けた。
 こんな風に彼女に触れるのは、本当に久しぶりのことだった。
 住吉家と朝比奈家、両家の対面を保つために柚子が翔吾と結婚すると言い出してから、翔吾はずっと彼女に触れられなくなっていた。住吉家の次女としての責任を精一杯果たそうとする彼女に、これ以上負担を負わせたくなかったからだ。
 いくら幼なじみだとはいえ、好きでもない男との生活は、箱入り娘の彼女にとっては戸惑いでしかないだろう。
 だから翔吾は結婚後、極力家にいないようにスケジュールを組み、なるべく彼女に触れないように心がけている。
 ……本当は、金曜日の夜の夫婦の触れ合いなど、もっての外なのだ。
 でもそれは柚子本人が納得しなかった。
< 33 / 108 >

この作品をシェア

pagetop