政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 なるべく音を立てないように玄関のドアを開けた翔吾は、すぐにリビングの電気がついていることに気が付いて眉を寄せた。
 時刻は午前二時を過ぎている。
 もしかしてまだ寝ていないのか?
 訝しみながら廊下を進み、リビングへ続く扉を開けると、果たして柚子はそこにいた。
 ソファに丸まり、かわいい寝息を立てている。すぐそばに同じように丸まって寝ているクロに寄り添うようにして。
 やはり寂しかったのだ、と翔吾は舌打ちをした。
 彼女はいつもは帰りが遅い翔吾を待たずに先に寝る。翔吾がそうしてくれと頼んでいるからだ。
 だから今、電気がついたままのリビングで寝ているということは今日は起きて待っているつもりだったのだろう。そしてそのまま寝てしまった。
 帰り道の車の中で、翔吾はタブレットに出産に関する書籍を一冊ダウンロードした。その本によると妊娠中の女性は情緒が不安定になることがあるのだという。
 彼女はまさにそういう状態なのだろう。
 はじめての妊娠なのだ。ひとりベッドで眠るのでさえも不安だとしてもおかしくない。
 ……一番身体を大事にしなくてはいけない時に、ソファで自分を待たせるようなことをしてしまった。
 翔吾はため息をつくと、ゆっくり彼女に歩み寄り、起こさないように慎重に抱き上げる。
 クロが驚いたようにぴくりと耳を震わせて目を開けた。
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