政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 おそらくそれは、柚子のためでもあり、彼のためでもあるのだ。
 彼にとってみれば愛してもいない妻に毎日帰りを待たれるのは、気が重いに違いない。
 だから柚子は、いつも言われた通りにしている。少しでも彼の負担になりたくなくて。
 だが昨日は別だった。
 クロではなく柚子が妊娠していると思っている彼の誤解をその日中に解かなくてはと、起きて帰りを待っていたのだ。
 夜更かしはそれほど苦手ではないから、クロと遊んだり本を読んだりしていれば、大丈夫だと思ったのだが……。
 どうやら昨日は色々なことがありすぎて少々疲れていたようだ。
 しょんぼりとする柚子の頭に、翔吾の手がぽんぽんと触れる。そして優しい言葉が降ってくる。
「ごめん、ごめん。柚子は謝らなくていいよ。昨日は不安だったんだろう? ひとりにした俺に責任がある。でも柚子に先に寝ててもらわないと、俺は心配で仕事に集中できそうにないから」
「心配で……?」
 柚子は首を傾げて彼を見上げた。
「そう、心配で」
 少し意外な彼の言葉に柚子は、目を開いた。
 もちろん優しい翔吾だから、"起きて待たれるのは気が重い"などとは思っていても言わないだろう。
 だとしても、嬉しかった。
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