政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
「とにかく今は、柚子の身体が第一だ。朝も起きられないなら、起きなくていい。朝ごはんはテーブルに置いてあるから、食べれそうなら食べて」
 その言葉にまたもや柚子はびっくり仰天してしまう。目を丸くしたまま、彼に問いかけた。
「……まさか、翔君が作ったの?」
「そうだ。……なんだ、その顔。俺が作ったものは信用できないのか?」
 不満そうな彼に柚子はぶんぶんと首を振る。
 信用できないわけじゃないけれど、信じられない。
 結婚してから今までの半年で、彼がキッチンに立ったことはまだ一度もなかったからだ。それはなにも彼が、料理はしないと決めているわけではない。
 ただ、激務だからだ。
 昨日だって何時かは知らないが相当夜遅くに帰ってきたのだろうに、柚子は朝ごはんを作れなかったばかりか、逆に作ってもらうなんて。
 しかもこれはすべて彼が柚子が妊娠していると誤解しているからこその行動なのだ。
 申し訳ないのひと言だった。
 柚子は慌てて口を開く。
「翔君、あの、朝ごはんありがとう。でも、あのね……」
 でもその時、翔吾の内ポケットの携帯がルルルと鳴った。
 柚子は慌てて口を噤む。
 この時間のコールは、マンションの下に彼を迎える車が到着したという秘書からの合図だ。
 翔吾が電話に出て、「今から行く」と告げている。
 電話が切れたタイミングで、柚子はもう一度口を開く。
「あの……」
 本当にひと言でいいんだから、言ってしまわなくては。
 さすがに二日間も誤解されたままは具合が悪い。万が一にでも他の誰かに言われたら、ややこしいことになってしまう。
 でもその時。
「……っ⁉︎」
 突然、頬に柔らかいキスが振ってきた。
 柚子は目を丸くして言葉に詰まってしまう。
 いったいなにが起こったのかわからなかった。
「翔君……?」
 唖然とする柚子の視線の先、翔吾がにっこりと微笑んだ。
「いってきます。柚子」
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