政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 少しだけ面食らいながら、柚子は曖昧に微笑む。
 正直言ってどう答えていいものやらさっぱりわからなかった。
 今朝の翔吾は、寝坊をした柚子のために朝ごはんを用意して、"いってきますのキス"までして仕事へ行った。
 これだけ見れば、ふたりの新婚生活は順調そのものといえるだろう。
 でもそれは、翔吾の誤解の上に成り立っている束の間の見せかけだけの夫婦の姿。
 とてもうまくいってるよと、胸を張って言えないことは確かだった。
「まぁ、朝比奈さんが相手なんだもの。私たちが心配することでもないか。幼なじみだもんね」
 そう言って真希が肩をすくめた。
 ふたりは、引っ込み思案で人見知りな柚子をいつもそばで見守ってくれる貴重な存在だ。
 もちろん柚子と翔吾の結婚が姉の代わりだという事情も知っているから、半年が過ぎた今もこんな風に心配をしてくれている。
 それをありがたく思いながら柚子の胸は複雑な思いでいっぱいになった。
「ま、なにかあったらなんでもいいから言いなよ」
 真希の言葉に柚子が頷いたのを確認してから、彼女は話題を変えた。
「そういえばさー、聞いた? 美咲の話」
「美咲?」
 里香が首を傾げた。
「どうかしたの?」
 柚子も里香と同じように首を傾げた。
 幼稚園から大学までを柚子が過ごしたのは、いわゆる名家出身の娘ばかりが通う厳格な女子校だった。
 名家と呼ばれる人たちは意外と狭い世界で生きている。だから卒業してからも、同級生の誰がどうしたという話は、意外と耳に入ってくる。
 美咲とはそう親しくはなかったから、柚子は卒業以来一度も会っていないけれど……。
「それが先月、婚約破棄したらしいの」
「えー! そうなんだ……。婚約破棄って、あの婚約者だよね?」
 センセーショナルな真希の話の内容に里香が、驚いて声をあげる。
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