政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 柚子も目を見開いた。
 美咲には、学生時代から親が決めた婚約者がいた。それは本人も隠していなかったからわりと有名な話だったのだ。
 確か前回のランチ会の真希からの情報では、すでに結納も済ませたはず。
 それなのに今さら破棄したなんて、穏やかじゃない話だった。
「そうその婚約者よ」
 真希が神妙に頷いた。
「実は美咲の他に恋人がいたことが発覚したの」
「えー! ひどい話だね」
 里香の言葉に、柚子も深く頷いた。
 結婚間近の婚約者に裏切られていたなんて、これ以上つらい話はないと思う。
 ところが真希の話にはまだ続きがあった。
「その恋人がなんと妊娠したって言い出して、婚約者の実家まで乗り込んできたんだって! それでやむなく婚約者は美咲じゃなくてその恋人と結婚することになったのよ」
「えー…ひどい話だね」
 唖然として里香が呟く。
 柚子も完全に同意だった。
 柚子自身は美咲とはさほど親しくはなかったけれど、明るい朗らかなクラスメイトだった。その彼女にそんなにつらいことがあったなんて。
 絶句するふたりに真希がまた口を開いた。
「ひどいよね。でももっとひどいのが、婚約破棄をした後からわかったことなんだけど、その恋人の妊娠自体が、実は嘘だったの!」
「えー! なにそれ!」
 里香がまた声をあげる。
 同時に柚子の胸がドキンと鳴った。
"妊娠自体が嘘だった"
 その言葉が胸を刺した。
「その恋人、彼が結婚するのが許せなかったのよ、それで強硬手段に出たってわけ。それで彼も仕方なく……」
「で、結局どうなったの? そのままふたりは結婚したの?」
 興味深々で里香が聞く。
 真希がバカにしたように吐き捨てた。
「まさか! もちろん、別れたわよ。そんな嘘をつく相手と結婚できるはずないもの。軽蔑するわよ。でもだからって、美咲との縁談は当然元には戻らないし、もう……大騒ぎだったみたいよ」
「美咲、かわいそう……」
< 40 / 108 >

この作品をシェア

pagetop