政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 これ以上ないくらいの優しい言葉。
 こんなに優しくされた後に本当のことなんて言えるわけがないと思う。
 でも。
 でも言わなくては……!
「翔君、そのことなんだけど、あの、私、私ね……」
 決意を込めて翔吾を見ると、大好きな彼の瞳がまるで慈しむように柚子を見つめている。
 柚子の胸が切なく揺れた。
 この眼差しがずっとずっと欲しかった。
 こんな風に彼に見つめられたかった。
 絶対に手に入らないととうの昔に諦めていた温かい愛情に、このままずっと浸っていたい。
 この時間を終わらせたくはない。
 だって真実を告げてしまったら、この幸せは一瞬にして崩れ去ってしまう。
 どうしよう。
 どうしよう……!
「柚子?」
「翔君……」
 柚子の目からついに涙が溢れ出した。
 申し訳ないという気持ちと、またひとりぼっちになってしまうという不安、でも言わなくてはいけないという思いが頭の中をぐるぐる回る。
「柚子……、ごめん。ひとりにして、ごめん」
 翔吾の腕が柚子を包み、苦しげな低い声が柚子の耳に囁かれる。
 温かい彼の香りに包まれながら、柚子は涙を流し続けた。
 人見知りで引っ込み思案、それは自覚しているけれど、決して泣き虫ではないはずなのに。
 なにが正解でどうすればいいのか、頭ではちゃんとわかっている。でもとてつもなく大きな不安が柚子の上にのしかかり、どうしてもそれができなかった。
 弱虫!
 卑怯者!
 翔吾の胸に抱かれながら、柚子は自分自身を罵った。
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