政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 柚子自身、かつては財閥と呼ばれた住吉家の次女だから、親戚が多いのでは負けていないけれど、箱入り娘として世間知らずに育った分、今の生活には少々戸惑っている。
 結婚してから半年経つが、まだまだ慣れないことの連続だ。
「だ、大丈夫よ。ちょっとぼーっとしてただけ」
 まさかあなたに見惚れていましたとも言えなくて、柚子は慌てて言い訳をする。
 でも翔吾はまだ心配顔のままだった。
「だが……」
「本当に大丈夫。ほら、今日は会場にお義母様もいらっしゃるし」
 朝比奈家と柚子の実家、住吉家は先々代から家族ぐるみの付き合いで、翔吾の母である良子は柚子も小さい頃から"おばさま"と慕った仲だ。
 引っ込み思案で、少々人見知りするタチの柚子にとっては一緒にいてもらえるならありがたい存在だ。
 だがそれに翔吾が難しい顔をした。
「まったくあの人の社交には困ったもんだ。自分はともかく柚子まで巻き込むなんて。むやみやたらと連れ歩かないように一度ちゃんと釘を刺して……」
「本当に、本当に大丈夫だってば! 翔君」
 柚子は思わず声をあげる。
「お義母様の交友関係が広いのは朝比奈家のためだもの。今日の生花だって、財界の奥様方との付き合いもあって……っておしゃってた。私はそのお手伝いをしたいだけ」
「……だったらいいけど」
 そう言って翔吾は小さくため息をつく。
 そして少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんな」
 柚子の胸がずきんと痛む。
 彼のこの顔を見ると、自分と彼がお互いの家同士の都合で決めた愛のない政略結婚だということを改めて思い知らされる。
 愛されていないという事実を突きつけられるのだ。
「とにかく無理はしないように」
 その言葉に柚子が頷くと、翔吾はとりあえず納得して、部屋を出て行った。
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