政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
「あまり、優秀な生徒にはなれないと思いますけど……」
「あら、いいのよ。先生はそんなことのために教室を開いていらっしゃるわけじゃないもの。ただ生花のよさをたくさんの方に知ってもらいたい、いつもそうおっしゃっているわ。そういう意味では今日一番楽しんでいた柚子ちゃんは先生にとってはとてもいい生徒ね」
 良子の言葉に柚子の胸は温かくなる。
 楽しんでくれればそれだけでいい生徒だなんて、なんて優しい言葉だろう。
 でもそこで良子はなにかを思い出したように「あ」と声を漏らした。
「でもこれでまた翔吾から苦情がくるわね」
「え、翔吾さん?」
「そう。あまり柚子ちゃんを連れ回すなって、怒られちゃう」
 そう言って良子はやや戯けるように顔をしかめた。
「お義母さま、あの、翔吾さんの言ったことは……!」
 柚子は慌てて首を振る。
 良子が柚子を安心させるように微笑んだ。
「わかってるわ。翔吾が勝手に言ったことでしょう?」
 そしてにっこりと微笑んだ。
「ふふふ、まあでも翔吾が言ったことも間違いではないわよね。私も少し柚子ちゃんを連れ回しすぎた自覚はあるわ。なにしろ小さい頃から知っている可愛い可愛い柚子ちゃんが本当に娘になってくれたんだもの。ちょっとハイになっていたのね。これからは少し控えるわ」
 親子して同じようなことを言って、良子は目を細めて柚子を見る。
「お義母さま……」
 その優しい眼差しに、少し甘えるような気持ちになって、柚子は思わず口を開いた。
「それは、翔吾さんの結婚相手が私でもよかったということですか」
 でもそこで、あまりにも率直な質問すぎると思い口を噤んだ。
 良子がなんと言うべきか迷うように瞬きをしている。
 柚子はうつむいて首を振った。
「あ、いえ……。なんでもありません。気にしないでくださ……」
「柚子ちゃんがよかったわ」
 はっきりとした良子の言葉に顔を上げると、柚子の愛する夫によく似た優しい眼差しがそこにあった。
 良子がほんの少しだけ申し訳なさそうに口を開いた。
「そういえば、こんな風にはっきりと言ったことはなかったわね。私は柚子ちゃんが翔吾と結婚してくれてよかったと心から思っているのよ」
 そして少し遠い目をした。
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