政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
「うちの息子の妻よ」
 良子が嬉しそうに皆に紹介をする。
 柚子は皆に向かって頭を下げた。
「朝比奈柚子です。よろしくお願いします」
「まぁ、なんて可愛らしいんでしょう! お人形さんみたいね」
「息子って翔吾さん? いつご結婚されたのかしら」
 もともと会話は弾んでいたようだが、柚子の登場でますます場は盛り上がる。
 柚子は精一杯の笑みを浮かべた。
 このような場で気の利いたことが言える自信はまったくないが、せめて、笑顔でいなくては。
「ほんの半年前にね。息子も三十でしょう? ようやく片付いて安心したわ」
 良子は心底安心したようにため息をつく。
 実際のところそうなのだ。
 翔吾には小さい頃から決められた婚約者がいた。
 それなのに適齢期になってもふたりがいつまでも話を進めることに同意ないものだから、両家の親は随分とやきもきした。
 それどころか一年前、婚約は破棄したいと言い出したのだから、もう一時は朝比奈家はもちろんのこと柚子の実家の住吉家も大騒ぎになった。
「でも翔吾くんとお嫁さんはもう小さな頃から婚約されていたんでしょう? お嫁さんが成長されるのを待っておられたんではなくて?」
 ふくよかな女性が柚子を見て微笑んだ。
 どこに行っても年齢よりも若く見える柚子と翔吾の間に少々年齢差があるとみたようだ。
 その言葉に、柚子は曖昧に微笑み返した。
「え、ええ、まぁそうね。柚子ちゃんは、翔吾の五歳下だから……」
 良子がわずかに戸惑いながら彼女の言葉に答える。
 そして申し訳なさそうに柚子の方をチラリと見た。
 今話題にあがった翔吾の婚約者とは、いうまでもなく柚子のことではない。
 柚子の姉の、住吉沙希(すみよしさき)のことだ。
 住吉家と朝比奈家が娘と息子を婚約させていていずれ縁続きになる予定だということは、この世界では有名な話だった。
 だが、ふたりいる住吉家の娘のうちどちらが翔吾と婚約していたのかまでは知らない者も多かった。
< 9 / 108 >

この作品をシェア

pagetop