政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
 その柚子の髪にキスを落として、翔吾は悪びれることなく口を開いた。
「いいじゃないかべつに。大変な大仕事に挑むのは柚子なんだ。代わってやれない分、俺は俺の出来ることをやりたいんだよ」
 やっぱり産科の先生のアドバイスはあまり役に立たなかったようだ。
 柚子は苦笑しながら、雑誌をパラパラとめくる。
 そしてあるページに目を止めた。
「あ、ここだ!」
 姉の沙希が載っている箇所である。
 ちょっとしたコラム的な記事だが、今話題の起業家として女性とキャリアというテーマで写真付きでインタビューに応えている。
「お姉ちゃん、やっぱりすごいなぁ」
 誇らしい気持ちで柚子の胸はいっぱいになった。
『マタニティ雑誌のインタビューなんて私自身は出産経験はないから、話をいただいた時は尻込みしちゃったんだけど、柚子が妊娠したって聞いて受けることにしたのよ』
 そう言ってくれたのも嬉しかった。
 その姉は、妊娠した柚子にたくさんのお祝いの言葉を残してまた日本を飛び立って行った。
 ただ前回と違うのは、今回はしょっちゅう連絡があって、世界各国のベビーグッズが山ほど届くようになったことだ。
 とても使い切れるかどうかはわからないが、姉からの気持ちとして柚子はありがたく受け取っている。
「お姉ちゃんからもらったバスソルトすっごくリラックスできるんだよね。ふふふ、さすがはお姉ちゃん」
 柚子の言葉に、翔吾が心底悔しいというように舌打ちをした。
「あいかわらず柚子は沙希が一番だな。沙希だって柚子を甘やかしてるのに、そんなに嬉しそうにして……この違いはいったいなんだ?」
 まるで沙希に嫉妬でもしているかのようにそう言う翔吾に、柚子はくすりと笑みを漏らす。
 そして、その疑問に対する的確な答えを口にした。
「翔君は、私が自分でできることまでやっちゃうんだもん。家事だってなんだって私もうやれるのに……」
 でも翔吾はそれでは納得しなかった。
「ひとりの時は、柚子もいろいろやってるんだろ。それで十分じゃないか。俺が家にいる時くらいは思い切り甘やかしたいんだよ。言っておくが、これは柚子が妊娠してるかどうかは関係ない。ただ俺がそうしたいだけなんだ。今までしてやりくても、やれなかった分なんだからな」
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