下弦の月
意識を取り戻して、ゆっくりと目を開けた。


もう、なんだったんだろ?


そう、呟いて隣を見上げても。

回りを見渡しても、彩芽の姿はない。



その代わり、すぐに異変に気づいた。


道路は、コンクリートではなく土を固めたような…強いて例えるなら田んぼ道。


路地裏から大通りに出て見ても、同じ道。


道行く人達は全て、着物を着ている。


洋服を着た人なんて一人も居ない。


もしかして……ここは……京都ではなく……京?



タイムスリップしちゃったの!?


すぐに、戻らなきゃ!



きっと、あの簪を着けたせいだから……

外せば、元の時代に戻れるはず!


髪に手を添えたが、簪は挿さっていなかった。




うそっ!?

もしかして……落としたのかな。


歩いて来た道を引き返したけれど……簪は見つからず。


もう、どうしたらいいかもわからなくて。


その場に、しゃがむと自然に涙が溢れていた。



「大丈夫ですか?」



止まらない涙を流している私の背中に手を添えて、

そう、声を掛けてくれた人を見ると。


日本髪を結っている、とても綺麗な女性だった。


見た感じ、歳は私と同じくらいだろうか?



「…はい…大丈夫です…」



涙を袖で拭って、鼻を啜る。



「そうですか…?泣いてらしたから、何かお困りなのかと…」


優しい声で、背中を擦ってくれて…

また瞳に涙が滲んで、視界はぼやけていく。
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