下弦の月
目を開けると、真っ白い布団の上に寝ていて。

布団の脇には助けてくれた女性が座っていた。



「お目覚めですか?」


安堵したような、優しい笑みを向けてくれて、私はコクリと頷いた。




「良かった。貴方は、意識を失ってしまって…私の家に連れて来たのです。私は、申し遅れましたが…八重と申します。」



「…八重さん…助けて頂いてありがとうございます。私は…月香といいます。」



「いいえ、性格なのでしょうか?困ってそうな人を放って置けないもので…。月香さん、私に泣いてらした訳を話してくれませんか?」



八重さんの優しさに甘えて、話そうとしたけれど。

本当の事を話して、理解してくれるかわからない。


かと…言って適当な言い訳も思い付かず、



「八重さんは…私が今から言う事を信じて下さいますか?」


そう、漆黒の二重の綺麗な瞳を見つめて聞いてみる。


「月香さんは、嘘をつける方ではないと…瞳が言っています。だから、私は信じますよ。」


って、言ってくれたから。



タイムスリップした経偉、あの簪を失って泣いていた事を話した。


ただ、黙って聞いていてくれた八重さん。



「ということは…月香さんは、平成という時代から来たのね?」


はい。と、頷いた私の頭を撫でて。


「それなら、その簪が見つかるまで此処に居なさいな?」



「え?そんな…迷惑かけられません。」



「迷惑だなんて思ってないわ。それに、簪が無ければ元の時代には帰れない訳だから、行く宛もないでしょ?」



「そうなんですけど……」


「だったら、遠慮せずに…って言いたいんだけど。私の仕事を手伝いながらって事でいいかしら?」


「八重さんの仕事?」


「そう、私は髪結い屋をしているの。」



髪結い屋?

現代でいう、美容院みたいな所。



「はい、お役に立てるかわかりませんが…お世話になります。」



寝たままだった私は、今更ながら申し訳なくなって。


起き上がって、頭を下げた。



「こちらこそ、よろしくお願いします。」


にっこり笑ってくれた、八重さんは。


今日は、休んでなさい。と私を布団に押し付け、肩に手を振れた時だった。




襖の外からーーー。
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