下弦の月
「八重…お前が助けた女の様子はどうだ?」



と、低いけれどよく通る声がした。


少し驚いた私に、八重さんは、大丈夫よ。と言ってくれて。


肩から手を離して。



「もう、意識を戻されましたよ。どうぞ。」



そう、襖の外の男性に伝えると。


では、失礼する。と襖を開けて中に入り、



八重さんの隣に胡座をかいて座った。




その男性と、眼が合った瞬間。



妖艶な切れ長の瞳、綺麗な高い鼻、薄い形のいい唇、高い位置で一つに束ねた黒い綺麗な髪に。


瞳を奪われた。



こんな綺麗な男性が、この時代にも居たんだ。



「月香さんって言うそうよ。」




私の背中に手を添えてくれた八重さんの声で、ハッとして…



「初めまして。」



頭を下げると、口角を上げて微笑んで。



「俺は、土方 歳三だ。よろしく。」




確かに……そう言ったから、ますます瞳を逸らせない。



土方歳三と謂えば、新撰組の副長。



何度も瞬きをして、土方さんを見つめていると。


「俺の顔に何か、付いてるか?」



そう、聞かれて。



「いえ、何も…」



ようやく、瞳を逸らして下を向いた。



そんな私に、


「いい男だから、見惚れちゃったのよね。」



なんて、八重さんに言われてしまい……顔が火照りだす。



「月香さんを、此処へ運んでくれたのは…たまたま通り掛かった土方さんなのよ。」


って……八重さんが私を覗き込んで、また赤く染まる顔を見て、クスッと笑った。



赤い顔を上げて、ありがとうございました。




頭を下げれば、礼はいい。




それだけ言って、立ち上がると。



「明日は、頼んだぞ。」




八重さんに、そう告げて出て行ってしまった。
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