下弦の月
その後、聞いた話によると。



八重は、お父さんが営んでいた髪結い屋を手伝っていたのだとか。

だけど、突然の病でお父さんが亡くなってからは一人で切り盛りしているらしい。


お母さんは、八重が産まれてすぐに亡くなったそうだ。



私の母も産まれてすぐに、亡くなった。と聞かされた。



だから私は、父と9つ離れた兄に育てられた。



似た境遇の八重に運命を感じて、何だか嬉しかった。




次の日。

新撰組の屯所に、八重と二人でやって来た。


八重の話では、何でも最近は隊内はバタバタしているらしい。


不安な顔で……何か事件が起こらなきゃいいわ。と呟いた八重を見て、



私は、大丈夫。としか言えなかった。



八重に昨日、聞いた日付はーーー五月二十八日。


ということは、一週間後に池田屋事件が起こる。

だから、土方さんは忙しくて八重を屯所に呼び出したのだろう。




「すいません、髪結いの八重です。」


門の戸を開けて、八重が呼ぶと。


中から、綺麗な黒髪を一つに束ねた


二重の瞳の男性が、出て来た。



「八重さんが、屯所へ来るなんて珍しいですね。」



「そうですね、お忙しい土方さんに呼ばれまして…」



「左様ですか、副長なら部屋にいると思いますのでどうぞ。」


中へ促してくれた男性は、私に視線を向けたから。


「はじめまして、月香と申します。」


頭を下げると、俺は…斎藤一。




本当に、斎藤さんもイケメンで驚いた。



「可愛いでしょ?斎藤さん。」



「えっ…まぁ…」




顔色ひとつ変えずに、私を見つめたまま、答える。



噂通りの無口そうで、クールって言葉が似合う。




「あとで、斎藤さんの髪も結いましょうか?」



「ああ…頼む。」



そう、八重に答えた斎藤さんに。


では後ほど。と頭を下げた八重と一緒に、斎藤さんに私も頭を下げて。



土方さんの部屋に向かった。
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