空を舞う金魚
綾城を滝川の部屋に送り届けて、砂本は渡瀬の居るバーに赴いた。スツールに腰掛ける渡瀬は会社の女子社員が騒ぐだけあってこんな暗い店の中でもライトを味方にして絵になっている。淡い色の髪が砂本を見て会釈をしたのにつられてさらりと揺れる。砂本は渡瀬の隣に腰掛けた。
「綾城さんは滝川さんの家に預けてきたよ」
「お世話掛けました」
ぺこりと頭を下げる渡瀬につい突っかかりたくなる。
「渡瀬くんにお世話掛けられた記憶はないな」
目も冷ややかに渡瀬を見ると、渡瀬も笑っているのは口許だけで、目が笑ってない。砂本は大きくため息を吐いて、少し天井を仰いだ。
「……渡瀬くんが爽やかイケメンだって騒いでる女の子たちにその顔見せてやりたいよ」
「そんなに悪い顔してますか?」
穏やかに言う渡瀬に呆れて言い返すことも出来ない。綾城を泣かせたのは、間違いなく渡瀬なのだろう。
「……、で? 何を言ったんだ、綾城さんに」
「プロポーズしました」
あっさりと零れた言葉は、一瞬、砂本の耳を通り過ぎようとした。