空を舞う金魚
千秋が何も言えないで居ると、砂本さんはその様子を見て苦笑した。そしてコーヒーメーカーからカップ二つにコーヒーを注ぐと、

「意識して貰えるのは嬉しいけど、会社(ここ)であんまりかわいい顔見せて欲しくないな。敵が増えると敵わない」

そう言って砂本さんは給湯室から出て行った。言われたことを即座に理解できず、頭の中で復唱して理解すると、ぶわっと顔に熱が集まるのを感じた。

(か、かわいいって……)

そんなこと、この人生で初めて言われた。教室の埃みたいな、水槽の底の砂に混じる魚みたいな千秋に、そんな形容詞が付くなんて思ってもみなかった。

(お、落ち着いて……。砂本さんは言い慣れてるだけなんだから……)

会話も軽快で、いつもやさしい笑みを浮かべている本さんは部内で慕われている人物だ。千秋を相手にするのとは違って「かわいい」なんて言い慣れているに違いない。

(落ち着こう……。まだ月曜日始まったばっかりじゃない……)

火照ってしまった頬を手のひらで叩く。部長のカップにコーヒーを注ぐと、お盆に載せて給湯室を出た。

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